宝石の科学とうんちく (2)人工宝石と加工法

宝石の製造法や改質について簡単に見ていきますが、まず、岩石のでき方をイメージしてください。

ハワイ島のキラウェア火山が溶岩を吹き出す様子を見られた人もおられると思うのですが、その吹き出た溶岩の温度は1000-1200℃程度です。

溶岩の温度は成分によって異なりますが、おおよその温度はその色から予測できます。これを「色温度」といい、スペクトルと温度の関係からその温度を知ることができます。

いろいろな火山の写真を見ると、噴出している溶岩温度は、800-1200℃ぐらいで岩石が溶けている状態なのですが、この高温度でも、岩石の成分によっては溶けていない岩石もあるし、揮発する成分などもあって、いろいろな状態でいろいろな成分のものが流れ出ていると考えられます。

流れ出た溶岩

地中にあったときの温度はそれ以上で、圧力や温度はさらに高いと推定できます。

そのような様々な温度や圧力状態でいろんな鉱物が合成され、それが時間変化を経て冷えていって岩石になります。これが火成岩です。

そのほかに「堆積岩」「変成岩」と言われるような成り立ちで鉱石ができます。 それ等の中で、美しくて希少なものを削り出して磨くことで「宝石」になります。

このように、本来は、宝石は「自然が作り出したもの」なので、希少で美しいものには価値が出ます。

現在では、その宝石の生成過程などが、かなり解明されてきており、一部の宝石は熱や圧力などの物理的な操作や、薬品などを用いて科学的な操作が加えられて人工的に製造できるようになっています。

さらに、原石や既成の宝石を張り合わせるなどの加工をして、大きくて価格的に価値のあるものに作り上げる技術も向上しており、それらの加工によって作られた宝石は、「模造品」「ニセモノ」と呼べないレベルの宝石になっていて、現実的には、大規模広範囲に流通販売されているのは周知のことです。

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このように、原石に何らかの加工を加えて価値を高めることは、決して悪いこととは言えない・・・ということを前のページで紹介しましたが、宝石を加工する側は、価値を高める加工方法があれば、それを行って、通常価値以上のものを作り出したいと考えますし、購入する側は、価値が確認された価格で取引したい・・・と思っていますので、その品物が、販売側や購入者の双方が、納得した価値になっていれば全く問題はないのです。

その品質認定や真偽判定についても、宝石の真偽や品位を調査する作業には、最先端の分析機器が使われる場合もあって、非常に高いレベルの判定作業が行われる場合もあります。

ここでは、価値を高めるための、宝石の製造法や加工法を見ていくことにしましょう。

宝石の多くも岩石が溶けて固まったもの・・・

ちなみに、理科年表によると、コランダム・ルビー・サファイアなどの主成分の「酸化アルミニウム」の融点は2054℃、クロムの融点は1907℃とあり、宝石の水晶の融点が1610℃、ルビーの融点は2050℃ぐらいとされています。

鉄鋼が溶ける温度は、(成分で異なりますが)1,500℃前後ですので、それから考えると、この鉱物の溶融温度は非常に高温です。

このために、人工的に宝石を加工したり人工宝石を作るためには、何かの工夫して、低い温度で溶融できるようにすることが課題になります。

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1つの方法は「化合」させることです。 元素が化合すると融点が下がります。

そして、金属の溶接やロウ付けでも言えることですが、塩類のフラックスを用いると融点が下がります。これらの性質を利用して宝石を作ります。

要するに、適当な成分を混合したものを一度溶融させて、それをうまく凝固させれば宝石(鉱石)を作ることができる・・・という原理です。

それによって人工的に宝石ができるということはイメージできますね。

シリコンの単結晶 シリコンの単結晶

宝石の合成法では、昔からある方法はもちろん、最先端技術や最新設備が使われます。

製造方法を大きく分類すると、溶融させて結晶を育成する方法と、溶液相から単結晶を作り出す方法に分類されます。

ここでは、簡単にそれらの合成法を紹介します。ただ、簡単な紹介ですので、詳しく知りたい方は他の書籍やWEB記事にあるのでそれをご覧ください。

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ベルヌイ法

ルビーサファイアルチルスピネルなどは、酸水素炎(酸素と水素の高圧混合炎:2400-2700℃程度)を用いて、そこに原料粉末を落として、種子結晶上に同じ方位で成長させる方法で作られます。 この方法は火炎溶融法(かえんようゆうほう)とも言われます。

ベルヌイ法 ウィキペディアの絵を借用ウィキペディアの図をお借りして、それに説明を加えたものです

 

CZ(引き上げ)法

ダイヤモンド類似のGGGやYAGなどを作る方法で、混合溶融させた溶液中に種子結晶を入れて引き上げながら成長させて作る方法です。

上の写真のシリコン単結晶を作る製造方法がこれです。

この方法によると、格子欠陥が少なく、長い単結晶ができますが、この方法によってコランダム(鋼玉:サファイアやルビーの主成分)が作られたのは1990年後半といいます。

 

FZ(帯溶融)法

アレキサンドライトルビーなどを製造する方法で、材料棒の途中を溶融させて、その溶融部分を移動させながら単結晶を育成させる方法でこれらが製造されます。

 

スカール法・ブリッジマン法

キュービックジルコニア、サファイヤなどの製造は、電気炉中に材料を置き、容器(坩堝:るつぼ)の一部を溶融させて、化合させながら、溶融部分を移動して結晶化を行わせます。

ここで、坩堝を材料自体で作るのがスカール法と言われます。

 

フラックス法

エメラルド、ルビー、サファイヤなどは、溶媒に無機塩類のフラックスを用いて、フラックスと材料を混合することで融点を下げる・・・という方法の溶融法で、1960年ごろから行われています。

ルツボ中で原料を溶解して、アルミナを過飽和状態から冷却すると、900℃でアランダムができる方法を2011年に信州大学のグループが開発したとされています。

 

高温高圧法

ダイヤモンドなどの製造法で、地中と同様の高温高圧状態を人工的に作って、フラックスを併用するなどで合成させる方法です。

 

熱水合成法

エメラルド、水晶類、オパール、ルビー、サファイアなどの製造は、内部を高圧にできるオートクレーブ装置などを用いて、熱水溶液中で結晶を成長させる方法です。

(注)オートクレーブ : 内部を高圧力にできる耐圧性の装置や容器、あるいはその装置を用いて行う処理をいい、水晶の合成に使用されていることで有名です。

オートクレーブ内に、天然水晶の小片を入れて、アルカリ水溶液を満たして、上部に吊るした種水晶を吊るして密封し、それを高温高圧(約350℃、90~145MPa)に保つと、水晶が再結晶化して増大成長します。

成長速度は、1日当たり0.4~0.5mmの速度のため、数十日から数百日をかけて水晶の結晶が作られていて、宝石やクオーツ時計用の水晶振動子などに用いられます。

 

焼結法

トルコ石、サンゴ、象牙、ラピスラズリなどの製造には、粉末を高温高圧状態で固める方法が用いられます。

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これらの方法によって合成された宝石は、「天然物とは区別できる」とされています。

しかし、それらの適切な識別を、すべての宝石で行われているかといえば、それは疑問で、作る方の技術も向上しているので、これらも立派な宝石と言えます。

宝石を加工する

天然宝石は、大きく分けても70種類以上もあるとされます。

磨けば宝石

きれいな石を磨けば宝石になりそうですが、高価な石はそんなにうまく見つかりません。

そのために、単体ではなく、張り合わせて嵩上げしたり、きれいな色になるようにしたり、それらを「良いとこ取り」して張り合わせる・・・などで加工されます。

価値が上がるのであれば、それらの加工は、当然のこととして行われるでしょう。

例えば、ダイヤモンド底部に合成したホワイトスピネルを張り合わせたり、天然サファイヤと合成サファイアを張り合わせたり、水晶の間に着色ガラスを挟んだり、何層にも貼り合わせて色を調節する・・・などで、それらを複合して、大きな宝石が加工されているのですが、価値を上げるためには、高度ですごい技術がないとうまくいきません。

その継ぎ目は、ルーペなどでは判別できないほど精巧なレベルにあリます。(逆に、それを見破るための、すごい技術との競い合いが行われています)

ダイヤモンド、ルビー、サファイヤなどは単結晶なので、切子面で囲むダイヤモンドのブリリアンカットや、四角にコーナーカットされたエメラルドなどのファセットカットによって、色の美しさや透明感を出しますが、結晶質でない琥珀やオパール、(結晶質であるが)キャッツアイなどは、色や模様を目立出せる球面のカボションカットが一般的です。

それらに合わせて貼り合わせ技術ができているということになります。

注:この記事は専門記事ではないので、用語の説明などは簡単な説明だけです。興味ある方はググってください。

 

宝石の加工技術(一例)

熱処理についてはこちらのページにまとめて紹介していますが、その他の加工技術の一例を紹介します。

染色・着色、充填・油脂処理、放射線、コーティングなど、加工法には様々な方法があり、もちろん、加工のノウハウがお金に直結しますので、詳しい技術が公開されることはほとんどありません

 

単結晶の原石(ダイヤモンド、ルビー、エメラルドなど)は、結晶間の隙間が少ないので、着色剤が染み込みにくいことで、ラジウム、コバルト60,加速器などの、様々な発生源を用いての放射線処理をしたり、気相成長ダイヤモンド技術やPVDなどの、真空蒸着技術を用いて、着色や無色化が行われます。

メノウやヒスイなどの多結晶体では、自然に、いろいろなものが染み込んでおり、それが、良くも悪くも、色などで変化をしていますので、人工的に色や物質を染み込ませる「選択吸収」などの技法を用いて、色を変化させたり、無色化することが行われます。

エメラルドは「キズのないものはない」と言われるのですが、油脂中に着色剤を入れて、それに浸透させることで、見栄えを良くする処理が行われます。

もちろんこれらの処理の多くは、顕微鏡を用いて判定できる場合も多いのですが、そのような加工履歴は、一流の鑑定士さえも見逃してしまいそうな高レベルなので、チェックがスルーすれば、加工した側は「儲けもの」ということになるということなので、加工者と検査者のせめぎ合いが果てしなく続くことになります。

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しかし、これら加工や改質の実態がどうなっているのかや、詳細なことは全くわかりません。

たまにテレビなどで見る、原石取引の実態ルポなどを見ていても、何か怪しげなものですし、宝石の加工に対しても、どこで誰が何をやっているのかはわかりません。

宝石の加工には、かなりの設備費が必要なものもあるために、そこそこの研究機関やそれなりの企業も加わって、それをやっている・・・と考えられますが、それらの情報はほとんど表に出てきません。

宝石加工で透明になる

天然宝石以外の加工宝石の呼びかたについて

前のページでは、次のような加工宝石に区分したのですが、これも正式な分類ではないし、販売されている製品に「人工宝石 キュービックジルコニア」などのような表示は、法で定められない限り、まず絶対に人口であることや加工を加えていることなどを表示されることはないでしょう。

人工宝石:酸化チタン、チタン酸マグネシウム、キュービックジルコンなど、天然にはほとんど単体で存在しない材料を使って人工合成したもので、多くは装飾用に用いられます。

模造宝石:合成石を天然宝石に似たようにガラス、プラスチック、フリントなどを加工したものをいい、当然、純度の高いものや高価格のものもあります。

合成宝石:天然宝石と同じ成分のものを人工合成したもので、現在は、ルビー、サファイア、アメシスト、アレキサンドライトなどの、主要な宝石のほとんどが合成できる・・・といいます。

処理宝石:熱、着色、コーティング、放射線処理などを行って、見かけの良さを向上させたもので、程度の差はあっても、品位が向上し、見栄えが良くなるのですから、何らかの処理が行われているのは当然でしょう。ただし、加工されたものが適正価格で販売されているかどうかが問題で、そこには騙し合いの世界が見え隠れするのは当然でしょう。

 

次ページは、宝石の熱処理について紹介します。


(来歴)R5.2月に誤字脱字を含めて見直し。  最終R6年6月に見直し