宝石の科学とうんちく (1)宝石の価値 

宝石類は、原石を採掘して、それをカット・研磨して高価な宝石に仕上げられるだけではなく、今日では、価値を高めるために、ほとんどの宝石は何らかの細工や加工が加えられているといっていいようです。

宝石は『タカラノイシ』と書くように、自然に産出する石(鉱物)で、珍しく・美しく・大きなものが好まれるのは言うまでもありません。

しかし、その三拍子が揃ったものは、簡単に見つからないので、当然、それが産出されれば、高価なものになります。

はじめにお断りしておきますが、ここに書いた内容は「耳学問」レベルのものです。私は、金属関係が専門で、石や鉱物については、耐熱材や炉構造に関する勉強以外はやっていませんので、実際ここに書いたことをやってみて、どうなるのかということは、私にはわかりません。 さらに、WEBにもいろいろな宝石加工の記事があります。ただ、WEBなどの書いてある内容には、私が読んでも、「おかしいなぁ」という記述もあります。 しかしこれらについても、自分で実験して正否を確認したものでないので、それに言及することも出来ません。このため、この記事の内容も、「雑学」としてお読みください。

石から宝石が

(参考)岩石標本 Amazonのページ 例えば、変成岩15種¥1,472 堆積岩等30種¥4,193 100種¥18,810 などが販売されています。

上の写真は、「川原の石」ですが、これを丁寧に磨くと「きれいな石」になるものの、宝石にはなりません。

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非常に希少だから「宝石」

宝石は、多くの石などが混ざった鉱石の中から、希少な部分を選別していくのですが、ダイヤモンド鉱山においても、1カラット(=0.2g)のダイヤモンドは、平均で、3トンもの母岩を処理して見つかる・・・というほど希少です。

そして、さらに、そのうちの2割程度しか宝石用にはならず、さらにその等級分けをしていくと、ダイアモンドではあっても、ほとんどは研磨剤や工業用途向けになってしまって、宝石とは比べようもない低価値のものになってしまいます。

つまり、1カラット0.2gの装飾用ダイヤモンドは、15,000,000g(15トン)もの石の中から掘り出されている・・・という単純計算になるのですから、有名なダイヤモンド鉱山であっても、宝石にするためには、すごい費用です。

ダイヤモンドの指輪は高価なのは当然ですね。

加工するのは悪いことではない

品質の高い宝石ではなくて、安い宝石に、何らかの加工をして、品位や品質が上がって「高く売れる」ようになれば、グレーな感じはあるものの、それは商売としての通常行為です。

さらに、そのように手を加えたものを、企業や組織などが、その価値が下がらないような「良い仕組み」を保つようにしていれば、販売側も買い手側もWIN-WINなので、そうなれば、金銀などの地金相場とはすこし違う仕組みですが、その価値が支えられていることになって、それが違法ということにはなりません。

良いものを、さらに手を加えて付加価値を高めて、高い価格となるようにすることは、宝石に限らず、多くの場面で世界的、常套的に行われているので、売り手と買い手がWIN-WINの関係が保たれていれば、何らかの加工をして、その商品価値を高めることは、問題になるものではありません。

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加工された宝石は、「人工宝石」「模造宝石「合成宝石」処理宝石」などの区別する呼び方があります。

人工宝石は、天然の宝石と同じ組成や結晶構造を人工的に作り出したもので、合成宝石に含まれるもので、別に説明する、フラックス法で作られたエメラルドや、ベルヌイ法で作られたルビーなどが出回っています。

人工宝石と合成宝石は同じ分類の範疇ですが、酸化物ガーネット類やキュービックジルコニアなどは、エレクトロニクス材料の開発過程で、天然宝石と同じものが人工的に作られてことで、さらにそれが、ダイヤモンドに似た装飾用に進化した、天然宝石と同等品質のものといえます。

処理宝石は、価値を高めるために、天然及び人工の宝石に、熱処理や放射線、コーティング処理などを施してものをいいます。

さいごの、模造宝石は、新しい価値や美の想像ではなく、高級な天然宝石に見せるための加工をしたもので、これについても、価値が高まったことが、売り手買い手双方が納得していればいいのですが、往々にして、売り手が高く売る場合が多いことから、これは、グレーゾーンの部分が含まれている感じがします。

しかし、宝石を加工して価値を高めることに対して「悪い!」と感じる人も多いのです。

売り手側の価格と買い手側の価値感が相応で、それらが開示されておれば、何の問題もないのですが、悪いのは「騙す」「偽る」などの行為が入ってきて、WIN-WINの関係を崩してしまうことです。

もちろん、何らかの加工すれば「価値が上がる・・・」というものでもありません。

また、河原の石ころを加工するのではなくて、原価の高い希少品を扱うのですから、加工手間やリスクもあるために、上手くいけば利益になりますが、下手をすると損をする場合もあります。

このようなこともあって、このような宝石の加工がどこでどのようになされているのか・・・などは表に出ることがないものですし、加工のための設備費用などを考えると、零細企業規模では無理なので、高度な加工技術を持った企業などがやっている、特殊な世界のものと言えます。

名前は出しませんが、加工(改質)を、企業ぐるみで行って、オリジナル商品として販売しているジュエリー企業もあります。 もちろん、それが1つの商売として成り立っていますので、これも悪いというものではありません。

この世界では、作る人がいて、それを買う人がいて、双方が納得して取引されておれば、宝石を加工して価値を高めるのは悪いことではない・・・ということにしておいて、次に話を進めます。

宝石の加工が問題になるのは・・・

実情は、WIN-WINでないケース(すなわち、買い手側がだまされているケース)も多いのでしょう。

知り合いの宝石鑑定士の方の話ですが、宝石には、非常にまがい物が多いし、価格と価値の基準も「あるようで、何もない」ものなので、「まがい物を鑑定した時の対応が難しい」と言われていました。

鑑定士は、価格を決めませんし、すでに出ている鑑定書やその内容にケチを付けるのは、業者間でのタブーになっているので、余分なことにはノーコメントで鑑定を行う・・・とのことのようです。

それは、「お互いを尊重するため」も言っておられましたが、このような業界の仕組みも、持ちつ持たれつという事は、当然あることなのでしょう。

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加工されていない宝石は皆無とも言われる

色の安定化や着色のための熱処理などは、極安装飾品を除いては、ほとんど行われていない・・・と考えていいのですが、それらの加工は、品質を高めるためのものなので、やって悪い加工・・・ではありません。

しかし、貼り合わせ等の加工技術も向上し、巧妙?になってきているために、それを見極める技術も大変ですし、もちろん、それらが明示されて、それに応じた価格で取引されれば問題ではありませんが、どうも、そうならないことが問題のようです。

現状では、その加工の真偽を見極めるには、高額な理化学分析機器が必要になるほどに、年々加工の仕方も精巧・高度な仕上がりになっています。加工する側も、事前にチェックしていますので、それでますます技術が向上しています。

自然に産出する宝石で極上品が出るのは非常にまれなことです。

だから、既成品に追加工をして、その品位が上がれば高価になって高く売れますので、見つかリにくい超精密加工をするのも「技術」だという、大資本がうごめく世界(業界)における所作・・・だと言えます。

 

金属では「錬金術」が、しかし宝石には?

金属には「錬金術」という方法が模索されて、安価な金属から貴金属を作ることが試されて、いろいろな天才たちも「改良改質」に古くから取り組んできた歴史があります。

宝石にも、それと同様の品質改良の歴史があるに違いありませんが、多分、それが詳しく明らかにされることはないでしょう。

物理・化学の天才たちを虜にした錬金術は結実しなかったのですが、価格的な側面から言うと、宝石の改質加工は、成功していると言ってもいいのでしょう。

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純粋の単石を削り出したもの以外の、何らかで手を加えた宝石は、人工宝石、模造宝石、合成宝石、処理宝石などに分類しましたが、もちろん、通常はそのような呼び名がついた状態で販売されることはありません。

食品の産地偽装などで、なんらかの問題が出ると、さらに新たな「表示義務」などが加わてきて、より厳格になっていくのですが、宝石の世界は(ごく希少なものは別にして)素性や過程が示されることはありません。

せいぜい、売り手側では、鑑定結果による表示と、それに応じた価格を提示して、買い手側はその価値と価格を受け入れるかどうかで売買が行われるだけです。

それが仮に、5万円の実質価値(これも何なのかわかりませんが)のものを、50万円で鑑定書付きで購入すれば、50万円の価値に変わる・・・という世界ですので、これもチョット、不思議に感じるのですが、購入者と販売者がWIN-WINであれば、それで全く問題ない・・・という世界なのです。

もしも、その50万円の宝石の鑑定書を見せずに、他で再鑑定すれば、その価値が変わることは十分考えられます。

しかし、それをしない・させないことで、お互いの幸せ(食い扶持)を共有している仕組みによって、「価値の保護」が行われているという世界ですから、いい意味で、良い状態で「幸せを売る」市場が形成されている・・・ということがいえます。

そういう背景もあるので、ちょっとムラっ気のある、錬金術の素質のある人や企業なら、高度な改質加工はやってみたくなるかもしれません。

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本当に高額の宝石は、どこかの組織が掌握していて、その価値も、所在も管理されていて、その情報が維持されている・・・・といいますが、これは、正真正銘の高級品に限られています。

そうなると、いいものを安く買おうとする人がいて、売り手に、加工によってカラット数を増したり、高価な色に着色したり・・・ということで、高く売りたい人がいれば、当然、何らかの加工されて価値が高められた宝石品が出回ることになるのも自然の理でしょう。

宝石買取のPRも目につくようになりました

要らなくなった貴金属宝石類を買い取る会社のCMを見ることも増えましたが、査定価格や買取価格のあまりの安さに、驚く人も多いようです。

宝石に限らず、買取査定価格は、買ったときの価格以上になるのは特殊なケースですから、安い査定価格でも、それが買取相場と思わないといけないのですが、宝石類は少し特殊な面があります。

宝石類は、高額で購入することに満足すら覚えるもので、安価で買えば「宝石の価値」が下がるのですし、保証書などで、その価値が保証されているとなると、購入によるリスクもない・・・というのは、宝石流通の特殊さと言えます。

ただ問題なのは、高級な原石が非常に少ないために、玄人が鑑別しても、精密分析機器を使って分析判定しても、それが加工されたものかどうかがわからない品物が流通することは、何となくもやもやします。

もちろん、宝石を特殊加工をする側と、それを鑑別する(見破る)側のお互いが、技術の高め合いを繰り返して現在に至っているのですが、それでどうなるというものでもないところが不思議な世界です。

ここで、簡単に、宝石に関係する一般知識を見ておきます。

宝石の溶融合成

ダイアモンドの状態図鎌田・西原著地球科学より引用

ダイアモンドは、炭素の同素体(同じ元素で分子配列などの違いで違った性質のもの)で、太古の樹木などの炭化した「グラファイト」が地中深くの高温高圧によってダイヤモンドになった・・・とされています。

近年は、工業用ダイアモンドなどは、この仕組みを真似て高温高圧にすることで人工的に製造されています。

もちろん、その品位は宝石レベルではありませんが、硬いという特徴を利用して、砥粒や工具などの工業用途向けに人工ダイヤモンドが製造されていることはご承知でしょう。

 

宝石の多くは鉱石で、それが生成された地中では、いろいろな元素が鉱石中に混合しており、その成分も異なります。

また、地中の状態によって融点などの状態が変わり、冷却の過程などによっても変わることから、宝石ができる原理はわかっていても、それを人工的に作るのは簡単ではないということはイメージできるでしょう。

珪酸アルミニュームの状態図同上にあった図を一部修正して書き直し

これは、鉱物の成分、珪酸アルミニウムの状態図で、地中の状態によって温度と圧力が変われば、珪酸アルミニュームが、ABCのようないろいろな鉱物になるということを示した図です。

更にこれにクロムや鉄などの別元素が加わって融合すると、更に複雑な鉱物になって、このような図では表せない複雑なものに変化します。

つまり、この図は、ケイ素とアルミニウムの2元素の温度と圧力状態を示した図ですが、もう1元素が加わると3次元の図になってXYZ軸で表現しないといけなくなり、4元素になれば4次元の図は描けないので、他元素の状態を表現することはできなくなるのですが、自然界では、もっと多くの元素と濃度差などの条件や、地中の複雑な温度と圧力の条件の中から、たまたまに、ある一部分が「宝石」として価値のあるものになっているのですから、さらに美しくて希少な宝石となれば、すごい価値があるのは当然でしょう。

たとえば、宝石の「ルビー」は、コランダム(酸化アルミニウム)の変種で、クロム(Cr)が1%程度混ざった結果で、高級な真っ赤な「ルビー」になっています。

また、クロムが0.1%程度では「ピンクサファイア」になり、また、鉄やチタンが混ざると、青色の「サファイヤ」になるといいます。

それらの、成分、温度、圧力、冷却の過程等によって、出来上がる宝石の種類や品位が変わるのですが、これらが生成される確率は極小で、「神のみぞ知る世界」なのです。

しかし、元素の配合と圧力と温度条件で、それらが作られている・・・という原理がわかれば、作ってみようとするのが人間で、イチから宝石を作らなくても、現在の熱処理などの加工技術を使えば、改変してしまうのは簡単なレベルですので、ほとんどの宝石は何らかの加工をしているということにつながっていきます。

長くなるので、次のページで紹介します。次のページは、鉱石の融点の話からです。


(来歴)R5.2月に誤字脱字を含めて見直し。  最終R6年1月に確認