「銅」と銅合金は古くからあって広く使われてきた

「銅(Cu)」や銅合金は、人類が古くから用いていて、歴史でならった、銅鏡や銅鐸も、鋳造しやすいように「銅合金」に加工して利用されてきました。

銅は、銀についで電気抵抗が低い金属で、電線などの電気・電子機器には欠かせないものですし、高温超伝導体なども、銅の酸化物から出来ています。

銅は有害ではなく、人体にも、鉄や亜鉛などの次に多く取り込まれて、臓器には無くてはならないものです。

ここでは金属の銅と人体の銅などについて、話の種になりそうなことを簡単に紹介します。

【日本での銅の採掘】

「足尾銅山(栃木県日光市)」「別子銅山(愛媛県新居浜市)」などの名前をご存知と思いますが、銅山(銅鉱山)には公害・鉱毒の問題もたくさんありました。

銅(Cu)自体は、人間に害はありませんが、産出する鉱石の中の有害物質や有毒ガスによって、いろいろな公害が起こってきました。

銅は「自然銅」として産出されますが、これらの日本の鉱山は、海外のように露天掘りではなく、坑道奥深くから採掘するために採算性が悪く、現在はすべて操業していません。

足尾銅山跡 鎌倉大仏

PR


【世界の採掘量】

2015年の統計では、チリ576万トン、中国171万トン、以下、ペルー、米国と続き、毎年約1600万トンが採掘されており、需要が多いこともあって、採掘量は増加傾向にあります。

古代には「自然銅」として、銅色をした金属状態で採れるものを溶融して、銅塊をつくっていましたが、現在は、銅を含む鉱石から精錬して作ります

鉱石に含まれる銅は1%以下程度で、種類に応じて選鉱、分離、溶解抽出、溶融、還元などの方法で純度を高めた「粗銅」を作り、さらに電解精錬によって「電気銅」が精錬されます。

PR


【電気銅・タフピッチ銅・リン脱酸銅・無酸素銅】

電解精錬してできた電気銅は、電解液などが残っているので、一般的には、さらに、その電気銅を溶解して、銅塊にしたものを「電気銅」といいます。

99.9%以上の純度の量を「純銅」と言います。

電気銅は、若干の不純物(0.05%以下)を含むので、酸化雰囲気で加熱して、不純物を除去しますが、その時に酸素や水素を取り込んでしまうので、還元剤を用いて脱酸します。

この時、銅鋳型に鋳造する用途などに使う、完全に脱酸しない銅を「タフピッチ銅」といい、電線などの高級品以外の展伸材として、装飾品や普通の銅製品の用途で使用されます。

銅製品としては、電気銅や、脱酸した「無酸素銅」のほかに、りん(P)を含み、酸素量を低減して曲げ性、溶接性などに優れた リン脱酸銅 があります。

電線には「無酸素銅(OFC)」が使用されます。

無酸素銅は、高真空中で加熱して酸素を除去します。 JISでは2種類が規定されており、99.96%以上の純度の C1020(1種)と99.99%以上の純度の C1011(2種)があり、1種のうちのクラス1と呼ばれるものは高級品です。

高純度のほうが低水素脆性、深絞り性などに優れています。

銅は高価なイメージが・・・

電気銅の価格は1178円/kg程度(2023年1月平均値)で、鉄鋼の熱延鋼板が123円/kg程度ですので、「銅は鋼の約10倍程度の価格」というイメージになります。

これらの価格は相場を形成しているので、常に変動しますし、購入の方法によっても変わりますが、2020年1月と2023年1月の例をピックアップすると、鉄鋼厚板 88円→146円 銅706円→1229円 アルミニウム 420円→390円 ・・・と、アルミニウム以外は、多くのものが急騰して値上がりしています。

これでもわかるように、今までは、電気の電導性の高さで、「電線は銅」と言うイメージでしたが、現在は、太い高圧電線などでは、強くて軽い「鋼心アルミ撚り線」という「複合電線」に変わってきています。

アルミは銅より電気伝導度は落ちますが、密度が1/3と軽いので、太くすることと、鋼芯による強度保持によって、その他の特性も良くなるという理由ですが、過去の知識は、新しいものに変わってきていることを知っておかないといけません。

PR

貴金属と銅

電気銅を作る際に、電解精錬すると、陰極に純度の高い電気銅が析出しますが、陽極の粗銅の下部に「陽極泥(ようきょくでい)」として、イオン化傾向の低い金属が沈殿し、陽極泥から金、銀などの貴金属が回収されています。

銅塊1トンから金が30g、銀が1kg程度回収できるというのですから、すごいですね。

価格例を示すと、(実状価格ではありませんが) 電気銅1トン(800円x1000kg=80万円)を作るときに、13.5万円の金(4500円/g(金の価格)x30g=13.5万円)が入っているということです。

さらに加えて、6万円(60円(銀の価格)x1000g=6万円)のシルバーが入っているのですから、実に同価格の1/4が貴金属ということはすごいものです。

 

【銅合金】

北イラクで紀元前8800年ごろの自然銅で作られたとみられる「小さな玉」が発見されています。

また、紀元前より青銅や真鍮などの合金が用いられています。

日本でも青銅器が古くから用いられていたようですし、奈良の大仏の母体も、銅500トンと錫(すず)8トンの合金で作られています。

奈良の大仏(752年開眼)は、分割して鋳造したために、成分は各部で違うようで、約90%が銅で残りが錫と鉛の合金のようですが、写真の鎌倉の大仏(1260年ごろ?)は、約70%の銅と約10%の錫、20%の鉛で鋳造されている・・・とされており、奈良の大仏のヒ素の量が高いという特徴があります。

時代の違いで精銅の技術差が出ているということでしょうか。そして、すごい危険な方法で大仏が作られてことに驚きます。

周期表

周期表では、原子番号29の銅の周りには、よく知られた金属類があります。 ニッケル(Ni)や亜鉛(Zn)などの、銅(Cu)の周りの金属はよく似た性格があるので、これらの金属と合金にすれば、何か違った性質(加工性、強さ、色の違いなど)が出るということは想像できます。 それで、多くの銅合金があります。 それを見ていきます。

PR


【鋳造のための合金化】

鋳造するためには、できるだけ、融点が低いほうが有利です。

それもあって、合金にすれば融点が下がることは昔から知られていたのでしょう。

銅の融点は約1085℃ですが、例えばニッケルとの合金(白銅など)では、ニッケル(Ni)の融点が1455℃程度に対して、白銅の融点は1220℃程度となって、ニッケル単体に比べて融点が大きく下がっています。

真鍮(黄銅)は亜鉛(Zn:融点420℃程度)との合金で、Cu-Zn合金になると、その融点は800℃程度になります。

また、古くから使われていた青銅はスズ(Sn:融点は約232℃)などの合金で、その融点は900℃以下です。

つまり、この「合金にすることでCu単体よりも融点が下がる」ことによって、青銅にすれば、炭などで空気を送って加熱して、簡単に融解する温度が得られることがわかっていたので、この知恵によって大きな大仏が鋳造できた・・・ということが理解できます。

梵鐘 日本の硬貨

比叡山延暦寺で

寺院の鐘や貨幣は、銅合金の製品です。簡単に銅合金の紹介をします。

青銅(せいどう)

銅(Cu)+スズ(Sn) ブロンズ像など彫刻の材料に使われます。

錆びると、上の大仏や鐘のような緑色が出ますが、もとは黄色い感じで、「砲金」に近い色です。

このさびは「緑青(ろくしょう)」といい、かつては教科書にも、緑青は「毒」だと書かれていましたし、そう覚えているのですが、現在では厚労省も「緑青は無害」としています

むしろこの緑青は、不働態のように働き、腐食の進行を防いだり、殺菌性があるとされています。

 

砲金(ほうきん)

銅(Cu 90%程度)+スズ(Sn10%程度)の合金で、英語名は「ガンメタル」。

古くは砲身の材料などに使われていましたが、現在は耐食性や耐摩耗性に優れるので、メタル軸受けなど、回転する鋼製品などに接触する部分に使用することで、摩擦に耐える部品として使われています。

 

リン青銅

銅に錫が3~9%、リン(P)が0.3%程度を加えることで「ばね性」がでます。

そのため、りん青銅は、伝導性の接点(リレーの接点)などの電気機器材料に使われます。

 

アルミニウム青銅

銅にアルミニウム、鉄、ニッケル、マンガンなどを入れた合金で、耐食、耐摩耗に優れるうえに、強度があるので、車両や船舶の部品に使われます。

黄金色で延性があるので、金箔の代わりに使われるという用途もあります。

 

真鍮(しんちゅう)

黄銅(おうどう)・Brass(ブラス)とも呼ばれる、銅と亜鉛(Zn)の合金です。

一般的にはZn35%程度のものが多く、6・4黄銅(ろくよんおうどう:Zn40%)や7・3黄銅(しちさんおうどう:Zn30%)などと呼ばれるものも多く使用されています。

真鍮には、伸銅品と鋳物があり、亜鉛の割合が増えると赤みが消えていきます。

亜鉛量を多くしていくと、融点が下がり、硬さが上昇するという性質があります。

真鍮は、金管楽器や仏具などでおなじみの合金でしょう。

 

白銅

キュプロニッケルやニッケル白銅とも呼ばれます。

銅、ニッケル、鉄、マンガン、亜鉛などの合金で、銅75%+ニッケル(Ni)25%程度のものは、100円・50円硬貨に使われています

耐海水性や高温強度があるので、熱交換機用のパイプなどに加工されて使われます。

 

洋白(ようはく)

銅、ニッケル、亜鉛の合金で、白銅に比べて柔らかく、白っぽい楽器のフルートの多くはこの材料で作られます。

ばね性があるので、導電性の板バネやリレーなどにも多くが使用されます。

 

赤銅(しゃくどう)

銅に3-5%の金(Au)を加えた合金で、象嵌細工(ぞうがんざいく)などに使われます。

象嵌は木や陶器、その他の金属にはめ込む工芸技法ですが、シルクロードを伝って飛鳥時代に日本に伝わったものと言われています。

PR


銅の特筆点は電気と熱の通しやすさ

純銅の融点は約1085℃、比重は約9です。 持った感じでは、鉄(鉄鋼)約7.8より、少し重く感じます。

銅製のビヤカップは、手や口元に触れた冷たさが心地よいのですが、銅は銀(Ag)に次ぐ「熱と電気の良導体」である点が特筆できます。

熱については単位断面積当たりどのくらいの熱量が移動するのかを示す「熱伝導率」という数字で示されます。

また、電気の通しやすさに電気抵抗率があります。

これも、単位断面積当たりの抵抗値です。下は食器などに使われるステンレス鋼(SUS304)と比較した値を指標で表してみました。

数字はアバウトですが、このほうが、感じをつかみやすいでしょう。ステンレスを基準の「1」とした時の倍数を表示しています。

金属比較

銅線

銀、アルミニウム、銅は、熱や電気を通しやすい金属ですが、銀は貴金属であることから、価格的には、銅の優位さが際立っています。

現在では、太い電線はアルミニウムに・・・

ただ以前は、電気導線(電線)には「銅」が基本に使われていましたが、最近は高圧電線のほとんどが、中心に引張強さの高い鋼をいれ、その周りがアルミニウム製の編み線で作った、鋼芯アルミ線が使われています。

アルミ線の導電性は銅に比べると6割程度ですが、強さは2倍で価格が1/3で、1/3の軽さであれば、電線が銅からアルミ製に代わっていたのにはうなづけます。

ただ、この比較は純金属のもので、実際には合金化などで、いろいろな特徴が加わっていますので、この数字はイメージ数字と考えてください。

超電導においても研究が進んでいます

物質としての銅の話題として、高温超電導体があります。

超電導は、低温の環境で、電気抵抗がなくなる現象で、その材料系では、銅の酸化物を基本として研究されていて、それを「銅酸化物高温超電導体の研究」と呼ばれます。

超電導のポイントは、比較的安価な「液体窒素」温度(-196℃:77K)で超電導現象(電気抵抗がなくなる現象)を起こす物質を見つけることです。

超電導現象が1986年に発見されて以来、様々な合金の検討が行われていて、2005年に166Kの物質が発見されています。

しかし、銅合金の高温超電導体の中には、電気抵抗が0にならないなどと、不確実な物質ができる場合もあって、現状では90K~133Kを超えたあたりで、銅酸化物系高温超電導体の研究過程では大きな壁にぶつかっている状態ですが、液体窒素温度77K以上の温度で超電導状態になれば、大きな成果だと言える状態でしょう。

その次の実用的な冷媒は、液化炭酸ガスの195K ですので、それはハードルが高すぎるので、これからさらに、液体窒素で超伝導現象が起こる、汎用的な超伝導体の研究が進んでいくのでしょう。

 

人間と銅のかかわり

人間には銅イオンは必須元素で、体重70kgの人では 80mgの銅 が脳、腎臓、肝臓、血液、胆汁に多く含まれています。

このために、1日1mg程度を摂取する必要があるようです。

銅は、干しエビ、ココア、レバー、カシューナッツ、ホタルイカなどに多く含まれ、銅は、動脈硬化や心筋梗塞の予防に効果があるとされます。

体内の銅が欠乏すると、貧血、血管や骨の異常、脳障害を起こし、逆に過剰になれば、肝硬変や運動障害、知覚神経障害を引き起こすことがあるとされています。

タンパク質の構成元素ということでもあるので、魚介類を多くとるようにすればよい・・・という感じでしょうか。

 

以前には、有害と言われた「緑青(ろくしょう)は無害」ということが明らかになっているのですが、銅には殺菌性や消臭効果が確認されています。

銀(Ag)も制汗剤などに使われていますが、銅や銀は、生体に対する安全性が高いということで、制汗剤は、体温近くの効果が大きく、常温では銀よりも銅のほうが殺菌性がいいようです。

O-157やウイルスなどや菌などを、不活性化したり殺菌する効果もあるようで、この働きは、「接触面」で殺菌(制菌)効果によるものです。

銅による殺菌効果は「イオン化」することが関係しており、表面が乾いていても、身体の微量の汗で、銅の一部がイオン化するために、殺菌効果あることが確認されています。

 

切花の長持ちには銅はほとんど効果なし

余談ですが、生け花の花瓶に10円玉を入れると花が長持ちするといいます。

しかし、生花店を営んでいた私が、いろいろと行った実験では、銅の「長持ち効果」は微々たるもので、毎日水道水の水を変えるほうが確実に長持ちする・・・という結果でした。

つまり、急激な雑菌の繁殖には、水道水の塩素による殺菌と、水換えによる除菌のほうが効果的だ・・・という結果ですが、それほどに、水道水の殺菌効果は非常に優れていることを確認しています。

花屋さんでも、高価な「銅の花桶」を使っているところは、除菌効果よりも、銅の持つイメージで、新鮮さや清潔さの効果をアピールしているのでしょう。

この、10円玉をたくさん入れて花をいけるといい・・・というのも、やったことのない人の「とんでも科学」で、花の水の腐敗は進行が早く、銅の殺菌力が花の腐敗を押さえるほどではありませんので、殺菌性のある「花持ち剤」を用いるのと同等に、毎日水を変えるのが効果的だということを覚えておいてください。

 

→ 「シリコン」のページへ


(来歴)R5.2月に誤字脱字を含めて見直し。  最終R5年9月に見直し