硬貨でおなじみのニッケル (p.9)

日本の6種類の硬貨のうち50円、100円、500円はニッケル合金です。

ニッケルの元素記号は「Ni」で、鉄とともに安定な元素です。

水素から始まる核融合反応の最終段階は鉄またはニッケルで終わるとされていますので安定な元素ということです。

ここでは、いろいろな用途で使われるニッケルですが、硬貨、鉄鋼、形状記憶合金、そして、ニッケルによる金属アレルギーなどの話題を取り上げます。

 

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日本の硬貨の話

日本の硬貨

現在通常に流通している6種類の硬貨のうち500円(ニッケル黄銅:8%Ni)、100円(白銅:25%Ni)、50円(白銅:25%Ni)がニッケル合金です。

日本で流通する硬貨

発行益=額面-製造費用 なので、それから製造費用を計算すると、50円は20円、100円は73円、500円は43円と計算されます。

100円硬貨が比較的に高いとは言うものの、地金代を1円/g(これは全く適当な数値)とすると、100円の場合は27-1x7≒20円が加工費用になるのですが、非常に安くて、そして素晴らしい硬貨が作られていることに驚きます。

 

鉄鋼におけるニッケル

鉄とニッケルは同じ鉄属で全率固溶体(どのような割合でも合金になる)とされており、様々な鉄合金を製造することができます。

さらに、ニッケルが持つ耐熱性から、Niは耐熱合金用の元素としてはなくてはならないものです。

 

超耐熱合金と呼ばれるジェット機のガスタービンなどに代表される耐熱材料があります。

その主成分で、Fe基(てつき)、Ni基(ニッケルき)、Co基(コバルトき)に分けられますが、Co基の一部の材種を除いて、ほとんどの材種にはニッケルが含まれています。

鉄基のインコロイ、コバルト基のインコネルといった名称の耐熱合金名が有名ですが、様々な合金名のものが存在します。

Niは耐熱性が高いことから、非常に重要な元素と言えます。そのために、戦略物資などに利用されるなどで、価格変動も大きく、ステンレス鋼などの価格にも相場の影響を受けます。

 

低温容器やLNG船舶用に9%Ni鋼があります。

この鋼種は、オーステナイト系ステンレス鋼並みの低温特性があり、鋼材価格を抑えるために開発された鋼種です。

鋼は常温以下になるともろくなる性質があり(これを低温脆性といいます)、低温にさらされても容器が破損しないようにと考えられた鋼種で、高価な合金元素のニッケルNiの含有量を少なくして低温にも耐えるようにした鋼板で、溶接ができて溶接構造の低温用の輸送部品や圧力容器などに使用できる鋼板です。

 

ステンレス鋼にもNiは重要です

鉄鋼種では、オーステナイト系のステンレスや耐熱鋼に分類される鋼種のほとんどにニッケルが入っています。

耐熱性、耐酸化性に対してはクロムと同様に、ニッケルは欠かせない合金元素です。

 

工具鋼分野では、昭和50年代まで、ニッケルは鋼の品位を低下させるという考え方が主流でしたが、その後、焼入れ性やじん性を高める効果が見直され、2%程度までのニッケルを加えることで、特性の優れた工具鋼などが製造されています。

しかし、鋼などの合金成分は添加量だけでなく製造方法などによっても特性が大きく変わるので、このニッケルについても、定常的に効果あるということがよくわかっていないところもあって、現状でもいろいろな賛否があります。

 

形状記憶合金

ここでは、形状記憶や超弾性について、簡単に解説してみたいと思います。

古川マテリアル、大同特殊鋼、アクトメントさんのHP記事を参考にしています。

形状記憶合金には、Ni55%-Ti45%(ニッケル・チタン)の「ニチノール」と呼ばれる合金が有名です。

形状回復温度範囲を変えるために、ニチノールにコバルトや銅を加えた製品があります。

 

【形状記憶とは】

ここでいう形状記憶とは、変形を加えた状態のものを熱を加えると元に戻るような性質で、例えばバネのような部品に力を加えて変形したものにドライヤーで温めると元に戻すことが出来たり、温度を変化させると、バネが伸びたり縮んだりできるなど、様々なものに応用されています。

温度範囲も上記の成分では20℃から100℃程度で回復温度をコントロールできるので、人間の体温を利用してスイッチのオンオフや形状を操作したり、ステントのように、血管内に挿入して、体温を利用して拡張させる・・・など、様々な用途への応用が考えられています。

形状記憶合金の変化図

これは、古川マテリアルさんのHPの図で説明しましょう。

引張試験をすると、通常の金属では(a)のように品物を引っ張ると、弾性領域では加えた力と伸びが比例しますが、それを過ぎると「降伏」といって、引っ張る力に対抗出来なくなって変形だけが進みます。

さらに引っ張ると切れてしまうのですが、切れてしまう前に引っ張るのをやめると、永久変形と書いてある「伸びた状態」になったままです。

それが、形状記憶合金(b)では、この伸びた状態のものを、100℃程度までの温度にすると、伸びたものが縮んでいって、元の状態に戻ります。

もちろん、通常の金属でも、熱を加えると、残留応力などで少しはもとに戻る場合もありますが、形状記憶合金では、きっちりとした熱管理をすると、その変化が繰り返されます。

 

【形状記憶と超弾性】

上図の(c)は超弾性という現象の説明図です。

(b)の形状記憶合金では、温度を上げないと元の状態に戻らなかったのですが、超弾性体(超弾性物質)は、降伏状態を過ぎた時点で引っ張るのをやめると、元の状態に戻ります。

 

言い換えると、形状記憶合金を形状回復温度において変形させると超弾性体になるということです。

このために、形状記憶合金に変形を加えた後に、温度を変化させることで形状変化をコントロールすることが可能です。

 

形状記憶合金の一般的な使い方は、①ある製品の形状にする →②熱処理をする →③品物に変形(外力)を加える →④元の形状に戻すために温度を加える そして、→③④を繰り返す。・・・というような使い方になります。

 

【形状記憶合金の熱処理】

②の熱処理方法といえば、400~600℃に加熱して冷却するだけです。

ニチノールの場合は、通常は500℃程度で最大の回復状態が得られますが、加熱温度を変えることで、元の形状に戻す「回復温度」(通常は20℃から100℃程度)や回復率を調整できます。

これは、例えば温度によってストロークを変化させるアクチュエーターなどを考える場合に使用できるのですが、この動作条件は予備試験をして最良の条件を決めます。

形状記憶合金は面白そうで、WEBで探すと、魚釣の道具、自在ワイヤー、メガネ部品・・・など、いろいろ販売されています。

見ていても、感心するものもありますし、遊んでみるのも面白いかも・・・
形状記憶合金の製品を探してみる:楽天

ニッケルアレルギーの話

様々なアレルギーのうちでモノが肌に触れたときに皮膚におこる炎症を「接触皮膚炎」といい、その原因が金属によるものを金属アレルギーと呼ばれています。

 

これには20種類ほどが知られており、ニッケル、コバルト、クロム、などに発症例が多いようです。金、銀、チタン、ジルコニウムなどはアレルギーを起こしにくいとされています。

これは、アレルギーの原因が、金属から溶け出したイオンがタンパク質と結合して変化するため・・・と考えられており、「金属元素自体がアレルゲンというものではない」とされています。

 

装飾ニッケルメッキをされた製品は多いですし、時計・食器などのステンレス、ブラジャーに用いられる形状記憶合金、硬貨など、どこにでもある品物にこれらニッケルなどが含まれていますので、周りにある多くの品物があらルギーの原因物質になります。

近年ではそれらの対応として、敏感肌部分に直接接触しないようにしたり、原因物質を使わないようにするようになってきているものの、これらの合金は「有用金属」ですので、それを使わないようにすることも難しく、無くすることもないので、例えば「パッチテスト」でアレルギー検査をしてもわからないことも多いようです。

そのために、アレルギー反応が出たら、ともかく、疑われる金属類を肌に付着させないようにするようにしましょう。

もちろん、アレルギーを発症すれば、お医者さんに行くことをおすすめします。抗ヒスタミン剤やステロイド外用薬で治療するのが一般的です。

 

その他のニッケルの話

国際的にニッケルの使用量は毎年4%ずつ増加しているようで、上にあげた鉄鋼用などを含めて、様々な用途に用いられています。

上にあげた以外に、ニッケル水素電池やニッケルメッキの話を書きたかったのですが、これは別の機会にして、旧100円硬貨の話で終わります。

 

現在の100円硬貨はニッケル25%の銅合金(白銅)で、50円にも同材料が使われていますが、その昔、100円硬貨は「鳳凰」「稲穂」という図柄の銀貨でした。

大きさ、重さは現在と同様で、銀貨と言っても、もちろん純銀ではなく、銀60%、銅30%、亜鉛10%の合金でした。

上に書いた原価の考え方でこれを見ると、銀1gは70円前後しますので、5g近い100円硬貨では、銀の価格だけで100円を超えてしまいます。

これを溶かして売ってしまう輩が出てこないとも限りませんので、銀貨が「白銅貨」になったのは自明の理でしょう。

 

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