宝石類は、天然のままの原石から「カット+研磨」によってのみで仕上げられたものはほとんどない・・・と言われているほど、何らかの加工を加えられているのが実情のようです。
それらの加工を加えることは違法でもなく、問題になることではないし、さらに、宝石市場は「高級品・高品質品」を求めていて、「加工」することで宝石の品位が上がり、その結果で価格が上昇しているものについても、その宝石を販売側が保証書などで保証し、買取側もその品質に満足して購入しているという、両者がウインウインの取引であれば、何らかの加工を加えることも「悪いことではない」ということで受け取られているということです。
宝石を、「自然が地中で加工して高品質化しているか、人の技術でそれをしているか」の違いだけであって、人の手で高品質化することは、ただ単に、価値を高める操作ということなのでしょう。
ここでは、宝石の価値を高めるための加工法のうち、熱処理による改質の方法などを紹介します。
ただし、この熱処理以外の人為的加工(たとえば、数個の宝石を集めて、良いところどりをして、大きな石に仕上げるなど)したものを高価で販売する行為などは「グレーゾーン」の状態かもしれません。
宝石を張り合わせてあっても、それを素人ではまったく見分けがつかないような加工が施されているのは普通ですし、ともすれば、鑑定士などの専門家でも判定できないとなれば、これは、一つ間違えば、偽造・模造品になる可能性があります。
このように、人の手で高価格化することをダメとも言えないなどの、まだまだ難しい問題があることも確かですが、ここでは、技術的な宝石の「熱処理による変化」ということのとどめて紹介します。
もちろん、ここに書いた内容も、詳細に公表されているものではありませんし、温度や時間、雰囲気などの熱処理要素が少し変わるだけで結果が変化してしまうという微妙さなどもありますし、もちろん、熱処理をやったことで、品位品質を下げる場合もあります。
それもあって、この内容は、雑学知識程度に読んでいただくようお願いします。
熱処理された有名宝石の例
知る人ぞ知る、ティファニーの「タンザナイト」は、それを「新発見の希少宝石」と思っている人も多いのですが、タンザナイトは、「ゾイナイトという石を熱処理をして、Feの電荷状態を変えて濃いサファイア色のブルーにしたもの」というように説明をすると、何だか価値の低いもののように思えてしまうかもしれません。
つまり、そういう言い方をして宝石を説明していいのかどうかは別なのですが、加工されているというのは真相のようですし、その結果、価値の高い宝石になっていることも本当です。
しかしこれについては、ティファニーがその価値と価格を保証していますから、タンザナイトを購入して、加工宝石だと文句を言う人はいないでしょう。
熱処理は当然のように行われている?
ここで言う熱処理とは、熱を加えて何らかの優れた性質を獲得するものを言います。
先に「岩石の状態図」を示しましたが、自然の岩石は均質ではないので、条件が良く凝固した部分が宝石になる・・・と言えます。
加熱処理とは
色の良くないルビーやサファイア原石をルツボに入れてトーチバーナーで1000数十度にして焼成すると色が改善されることから、ほとんどのルビー・サファイアはこの加熱処理がされていると言っていいでしょう。
もちろん、それがされていても、値段が下がるということはありません。それは業界の努力の結果で築き上げられた仕組みといえます。
鉄鋼の熱処理などとの違い
私の専門は鉄鋼熱処理ですが、鉄鋼を加熱することにより鋼の「相変化」が起きて結晶構造が変わります。これによって機械的性質や化学的性質を変えるのが「鉄鋼の熱処理」ですが、この宝石の熱処理はすべてノウハウなのか、ほとんどの技術的な内容は公表されていないようです。
そのために、温度による組織などの変化を考察しにくいのですが、インクルージョンと呼ぶ、微細な内在物(介在物・含有物)の部分が熱により変化したり、全体組成と異なる微小組織部分が部分溶融するなどで色の変化が生じている感じがしますし、雰囲気の影響による酸化や還元反応なども大きな要素になっているはずです。
そうなってくると、温度、時間、加熱雰囲気、冷却条件などの熱処理条件が出来上がりの結果に反映するところが多分にあるので、ここに書いた処理をすると「この様になる」というのは確実ではありませんので、この点は重ねてご注意ください。
私自身、これらの宝石類の加熱実験さえも実際に行ったことはありませんし、WEBなどの記事を探してみても、確実に、金属熱処理的感覚とは違う内容ですから、この内容の熱処理をやってみて、本当にこのとおりに変化するのかどうかも、熱処理を行うことによって何がどう変化するのかも、それを行う是非についても、私にはわかりませんことをご了承ください。
アクアマリン:
多くは青緑色ですが、400-450℃に加熱すると青色に変色します。炉の雰囲気調整がポイントのようです。
アメシスト:
加熱することで、内在する褐色のインクルージョン(内包する物質)を除去したり拡散することで、明るい色に仕上がります。
紫色のものは退色して黄色みを帯びますが、黄色になると、シトリン(黄水晶)の扱いになります。
黒みの茶水晶を200-300℃の加熱をしても、色が良くなったり、シトリンに近くなるようです。
琥珀:
熱した亜麻仁油などにつけると、色が変わります。これによって暗色になり、クリア感が増すといいますが、高温に上げすぎるとインクルージョン(介在物)によって見え方が変わるようです。
もちろん、不可逆的です。(失敗すると一巻の終わりです)
ジルコン:
褐色のジルコンを900-1000℃で加熱すると脱色してホワイトジルコンになります。
一般的に、宝石の色は「青い色」が好まれますので、加熱雰囲気を変えるなどで工夫されて熱処理されているようです。
サファイア:
脱窒素雰囲気で500-1800℃で加熱処理が行われているようです。
青色が鮮明になったり、内包するルチルのインクルージョン(介在物)の消失などで、ほとんどのサファイアが、この熱処理をされているという情報もあります。
温度、時間を適時に変える必要があり、雰囲気も影響するなどのノウハウも必要です。
融点近くまで温度を上げてベリリウムを加えてオレンジ色を出す浸透拡散処理などが行われているようです。
タンザナイト:
原石はきれいな青紫色でなく、赤褐色や緑色があって品位が低下するために、450-500℃(MAX700℃)1時間程度の加熱をすることで青系統の色になるようです。
これも、タンザナイトは、熱処理してきれいな色にするのが当然のようになっています。
トパーズ:
イエロー・ピンクやブルートパーズを300-500℃に加熱すると、黄色成分が減少するとされます。
天然トパーズは無色のものが多く、砂に埋めてその加熱をするとサーモンピンクに変わります。
放射線照射なども併用されますが、淡褐色のものが上質とされますので、熱処理の扱いも難しいものでしょう。
トルマリン:
加熱すると淡色になったり、同時に加熱した他のトルマリンが変色するなどの現象があるようです。例えば、緑色が青色に変化するなどがみられます。
ベリル:
250度程度でイエローベリルはゴールデンベリルになります。更に高温の400-450℃でアクアマリンに変わります。
モルガナイト:
400℃に加熱して質が高まるとされています。
以上、簡単に紹介しましたが、これらの熱処理は不可逆的で、条件を間違えれば宝石が「ただの石ころ」になってしまいます。そのために、設備や条件管理などを考えると、素人の個人が手を出せるというものではなく、大きな企業や組織が参画している分野と言えます。
参考資料 鎌田・西本共著 本当にわかる地球科学 日本実業出版社 雑誌「熱処理」29巻1号 砂川一郎 宝石の処理 理科年表 平成30年版 国立天文台編 Wikipedia記事など


