鉄鋼で重要な合金元素 クロム (p.8)

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クロムはしばしば「クローム」「クロミウム」などと表示されますが、ここでは クロムCr としています。

クロムについて、身近なものは、ステンレススチール(ステンレス鋼)でしょう。

そしていろいろな部品類にクロムメッキをすると耐食性や耐摩耗性を増すので、Crはいたるところに広く使われています。

また、人間の身体にも含まれる必須栄養素です。

人体でCrが不足すると、糖尿病になる可能性が高くなるといわれます。その反面、「クロムは猛毒」という話題も耳にします。

ここでは、正しい知識を知っていただけるように、これらについて、わかりやすく解説していきます。

まず、クロムの毒性の話から

周期表

原子番号24の金属元素で、主に、3価と6価のクロムがあります。

この「価」というのを酸化クロム(Cr2O3)で説明すると、酸素Oは陰イオンの2価つまり「-2」でそれが3つ(-2x3=-6)ですが、それに対して陽イオンの3価のCrが2個(+3x2=+6)でプラスマイナス0となって安定に結合している物質になっています。

(酸化クロムにも数種類あり、CrO3(3酸化クロム)のような猛毒の6価のクロムもあるので注意。この点が重要です)

酸化クロムの粉

この酸化クロム(3価のクロム)は、昭和年代の終わりに、私が会社で金属関係の仕事をしていたころ、顕微鏡組織を観察するために金属表面を磨く「研磨剤」に使用していました。

それがある時から、「クロムは毒」「重金属は危険」ということが叫ばれて、全部をアルミナの研磨剤に切り替えたのですが、この酸化クロムは3価のクロム(Cr2O3)で毒性はありません。しかし、それでも、排出後の化学変化などの環境を考えて使用を中止しました。

この酸化クロムを使用すると、金属を顕微鏡観察するときに、研磨する仕上がりの早さが非常に速かったので、それが使えなくなったことが惜しまれますが、世の中の風潮に逆らうことはできませんでした。

この3価(+3)のクロムは無害ですが、6価(+6)の例えば、クロム酸カリウムK2CrO4は劇物です。

クロム酸という言葉に注意が必要です。

このクロム酸カリウムは0.5~1gが致死量とされており、体内に入ると簡単に還元されて、安全な3価クロムになるときにタンパク質や酵素と結合してその機能を失わせるようです。

ともかく、接触しても吸引してもガンになるなどの重大なダメージを受けます

その反面、人間の身体は毎日1mg程度のクロムを摂取しないといけないと考えられており、レバー、エビ、豆類、キノコ類などを食べることで摂取します。

精製されていない穀類もいいようです。

人体には2mgのクロムがあるとされています。精製された砂糖はクロムを排出する作用があるので、サプリメントなどでクロムを補う場合は、精製された砂糖をあまりとらないほうがいいとされます。

食べ物から摂取するということは、自然界でクロムが食物連鎖しているということです。

6価クロムのほうが活性なので3価クロムよりも体に取り込まれやすいのですが、6価クロムは特定のクロム鉱石に含まれる程度で、自然にはほとんど無害の3価のクロムとして存在します。だから、通常の生活では3価や6価ということを気にする必要はないでしょう。

ちなみに、サプリメントではピコリン酸クロムなどで3価のクロムを摂取しますが、多くは、鉄、銅、亜鉛、ヨウ素、セレン、モリブデン、コバルトなどの体内に必要な微量元素をあわせて配合されているものも多いでしょう。

しかし、これらも、とりすぎると毒になります。サプリメントに頼ることにも注意が必要です。

【重金属とは】

鉄の比重(約7.8)以上の金属を「重金属」という分類があり、クロムの比重は7.2ですので鉄よりも軽いのですが、重金属の反対語は「軽金属」でアルミやマグネシウムをさします。

その「軽金属」に対応して、比重が4程度以上のものを重金属とされるために、「クロムは重金属」に分類されています。



クロムの重要性とステンレススチール

まず、有用なものの代表、鋼(はがね)とクロムの話です。

もちろん、これらのクロムは3価のクロムですので、毒性がないことを頭に入れておいてください。

鋼は鉄Feと炭素の合金です。(鉄の項を参照

鉄に炭素を加えたものを「鋼」といい、熱処理(焼き入れ)することで非常に硬くなります。

しかし、ステンレス=さびにくい ですが、この耐食性を高めようとすると、炭素が邪魔になります。

耐食性を要求される場合は炭素を低くしますが、包丁などに使われるステンレスは焼入れして硬くする必要があるので炭素を多く含ませる必要があるのですが、その耐食性をクロムCrを入れることで補ったものが包丁などに使われている「ステンレス鋼」です。

そのため、当然、ステンレス鋼であっても耐食性は低い部類のステンレス鋼ということになります。

少し専門的になりますが、現在ステンレス鋼の分類をする場合、3つ、または5つに分類されます。3つの分類のほうが昔からあるので、これについて簡単に説明します。大きく分けて、

1)フェライト系ステンレス

13Cr(じゅうさんくろむ)と呼ばれる13%のクロムを含む、最も安価な部類のステンレスで、流し台などに多く使われているものです。

磁性があり、磁石に引っ付きます。

2)オーステナイト系ステンレス

18-8ステンレスが有名です。

これは、18%のクロムと8%ニッケルを含むもので、非磁性で磁石には引っ付きません。

スプーンやフォークなどの食器や耐食部分の部品などに用いられます。

3)マルテンサイト系ステンレス

包丁などの刃物用いられるステンレスで、焼入れをして硬くする用途に使われます。

硬くするために炭素を多く含みますので、オーステナイト系に比べて耐食性は劣りますが、硬くて強い品物にできるステンレス鋼です。

ステンレス鋼は錆びないのではなく錆びにくい鋼材です

ステンレスはさびにくいということですが、さびないのではなく、クロムの酸化物(サビ)が表面にできて、それが内部に進行しないので、全体としてさびにくくなっています。

砥石などで磨くと黒い汁が出ますが、これが耐食性の源になっています。

これも、有毒ではありませんし、無毒でもありませんが、あえて飲んだり食べたりするものではありません。(鉄やクロムの過剰摂取となり、よくありません)

余談ですが、近年はステンレスの種類も多様化して、上記3つの分類以外に、④析出硬化系ステンレス ⑤2相系ステンレス など合計5つに分けて説明されることが多くなっています。

【その他 鉄鋼におけるクロム】

鉄と炭素の合金が鋼(はがね)ですが、その大きな特徴は、焼入れ焼戻しの熱処理をすることで機械的性質を大きく変えることができる点が優れていて、現在の文明は「鋼」で支えられているといっていいでしょう。

その鋼に「クロム」を添加すると、

①大きな品物も焼入れで硬くなる「焼入れ性の増大」

②硬さの上昇や炭化物を造ることで「耐摩耗性の増大」

③鋼の組織を強くして「ネバさ・強さの増大」

などの効果が得られます。

工具に用いられる工具鋼(ダイス鋼)や高速度工具鋼(ハイス)と呼ばれる鋼材はクロムのほかにマンガン、ニッケル、タングステン、モリブデン、バナジウムといった元素を配合することで、様々な特徴を持った鋼が製造されています。

その製造法も、従来の製鋼法ではできない成分のものは粉末にした鋼を固める方法などで作られたものもあります。

合金の鋼類は、有毒か無毒か

重金属の単体は有毒有害とされるものが多く、鋼の成分も有毒なものが含まれています。

安全性のために廃棄する場合や、それら危険性のある物質を取り扱う場合は、いろいろな制約を受けるのですが、基本的には、製品の状態で加工したり使用する場合は法律的に問題になりません。

例えば、クロムやモリブデンを大量に含む工具鋼を保有していて、それを加工して金型にするなどは問題はありません。

ただ、研磨粉や微細な切り屑などになると、それらを吸引する可能性があって微妙で、有害物になる可能性があります。

しかし、法律的な問題ではなく、基本的に、金属類を長期間肌に密着させたり摂取することは良くないと考えておくのが無難です。

人体に含まれる微量元素は重要ですが、たとえ販売されているサプリメントでも、それを摂取する場合は、医師などの専門家に相談するのが良く、足りない場合を除いて、摂取には慎重であるのが望ましいでしょうし、ステンレスやチタン、プラチナなどがいくら人体に無害だと言っても、長期間の接触や摂取はしないようにするのが賢明です。

クロムメッキの話

知ったかぶりをする人が、メッキは悪い、クロムはよくない・・・と言っていることを真に受けると大変ですので、メッキについて正しい知識を知っておきましょう。

クロムメッキ

【メッキとは】

メッキは、電解液中に品物を入れて通電して品物の表面に金属(この場合はクロム)を表面に固着させることです。

電気で通電しない化成処理もありますが、多く行われる「クロメート」はクロム酸塩を用いる処理のことを言い、電解液は「クロム酸」の状態で、3価のクロムや6価のクロムの溶液になっています。

【クロムメッキとは】

耐食性向上、耐摩耗性向上、光沢性向上などの目的でメッキをしますが、クロムメッキには、大きく分けて ①装飾クロムメッキ(ニッケルクロムメッキ) ②硬質クロムメッキ(工業用クロムメッキ)があり、有害な6価クロムのほうがメッキがやりやすく、品質の良いものができます。

しかし現在は3価の電解液を用いたり、その他の金属による皮膜処理も開発されて、安全性をうたっているものに移っていく傾向があるのですが、品質的には、有害の、6価クロム電解液を用いる方法が優れています。

メッキ後の色メッキ後の色

メッキをした品物は、最終的には洗浄された状態で品物になります。

この状況では、3価や6価というイオン的に化学反応する状態でないので、触っても無毒の状態です。

クロムメッキされた製品はいたるところにあります。もちろん、きっちりと洗浄処理されていれば無害です。

それでは、何が問題かというと、メッキ液(電解液)を扱うメッキ業者さんが接触したり微粒子を吸引する危険性と、廃液の問題です。

過去には「無知で取り扱う」ことや「費用を下げるために廃液の処理をしなかったこと」が問題で、危険性を知らされずに作業して重篤な病気になったり、廃液を処理しないで河川を汚染して生態系に問題を起こしたのですが、現在では、法律的にも規制が厳しく、安全に管理されています。

この硬質クロムメッキは耐摩耗性が高く、長時間電解すればメッキ層を厚くすることができるので非常に優れたものです。

メッキ加工をする場合は、通電するときに、製品側のクロム層に水素ガスが発生し、それが残ると水素脆性によって鉄鋼製品が早期破損するなどの問題が生じる場合があります。

これを防ぐために、十分な洗浄とともに、メッキ後に200℃程度の加熱処理(これをベイキングといいます)することなどが行われます。これらによって、電解液が残留する危険性は低いといえます。

このメッキ層は、焼き入れ鋼の表面硬さ以上の硬さがあり、膜厚も厚いので、メッキ後に研磨することもできるので、高精度の製品に仕上げることも可能です。

このために、硬質クロムメッキは、他のメッキに変えられないということもあって、大切なものです。

その他 クロムの雑学

【宝石】

ルビーは高価な宝石ですが、これは、地中でコランダム(ダイヤモンドに次ぐモース硬さ9の鋼玉)に1%程度のクロムが混じると、濃い赤色のルビーになるとされています。

クロムが0.1%程度ではピンクサファイヤになり、価値が下がりますし、鉄やチタンが入ると青色のサファイヤになるというので、これは自然の不思議ですね。

ルビー原石

現在はこのルビーはもとより、サファイヤ、アメシスト、アレキサンドライトなど主要宝石のほとんどは合成されるという噂もありますが、今日、熱処理などを含めて、手を加えられていない宝石は皆無と言ってよいでしょう。→コチラを参考に

ルビー関連では、酸化チタンを使ってベルヌイ法(原料粉末を酸水素炎で落下させながら溶融して結晶を成長させる方法)での高級ルビー製造は古くから行われているようですし、熱処理や放射線を使って着色中心を変化させることによる高品質化は当たり前のように行われているようです。

もちろん、処理宝石かどうかを調べる技術と、偽物を本物に似せる技術の両方が進化しています。そして、調べる技術が後追いになることや、企業が本格的に加工販売に参入するなどもあって、改造宝石はかなり出回っているようですが、改造宝石は価値が低いということではありません。

【鉱石の採石】

クロム鉱石は南アフリカ共和国(44%)インド、カザフスタン(各17%)で多く産出され、偏在しているうえに、日本ではたくさん消費するので、使用量の60日分が政府の方針で備蓄されています。

【国家備蓄】

この備蓄は国家備蓄42日分と民間備蓄18日分の60日分で、平常時の使用量を基準にして市場価格の安定化を図る目的で備蓄されています。

ニッケル、クロム、タングステン、モリブデン、コバルト、マンガン、バナジウムの7元素が対象になっていて、レアアースなどについても順次追加されています。

これら元素(=レアメタル)の主な使用目的は鉄鋼や合金用途ですが、話題に上るものとしてはフェロクロム(鉄とクロムの合金)、フェロニッケル(鉄とニッケルの合金)などが相場を形成していて、近年では、中国の動向で価格が左右するという話題を聞きます。

そのため、鋼材価格には「サーチャージ」という言葉で、鋼材価格も短期的な相場の影響を考慮した価格体系が出来ています。(これは、「ひも付き」と呼ばれる、個別の多量取引の場合の価格で、小口の小売価格ではこのような言葉は使いません)

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