会社の若い人たちに電子工作に興味を持ってほしいと始めた実習の話で、これが4ページ目(最後)です。
その1 : 最初から検討までの段階(最初のページ)
その2 : 工具・パーツの調達~準備(2ページ目)
その3 : LEDを点灯させる(3ページ目)
その4 : 自己保持回路を作ってみる(このページ)
電子工作実習の最終段階で「ユニバーサル基盤上に自己保持回路を組む」というもので、上の1から4までを6時間程度かけて行うことで、若い方が電子工作に興味を持ってもらうために企画した実習の内容です。
機械に組み込まれる基本的な回路について興味を持ってもらうために、スイッチとリレーを使って簡単で役に立ちそうな身近な内容として「自己保持回路」を取り上げました。
自己保持回路とは
機械などを起動するとき、「入」スイッチを押すと機械が動き、スイッチをはなしてもその「入」の状態が維持され、そして、「切」スイッチを押すと、機械が停止するという動作をさせる回路が「自己保持回路」です。
何気ないことですが、言い換えれば、「入」スイッチを離しても、機械が動いたままで、「切」スイッチを押さないと機械が止まらないということを「自己保持」と言い、スイッチから手を離すと切れてしまったりするのは困りものですし、ワンタッチで機械を止めることができなければ、危険な時には困ります。
この動作を機械に組み込むことは、設計上で大切なものの一つです。電子工作というよりも、この仕組みは、安全のためには大事なことです。
つまり、この一連の動作を組み込むと、誤動作を防ぎ、緊急停止操作が簡単にできるので、この「自己保持回路」は安全に機械運転をするための基本となります。
これを理解するには、「スイッチ」と「電磁リレー(有接点)」について知り、さらに、回路図をみてその動作を理解することが必要になるのです。一般的にはラダー図(シーケンス図)で書かれているものが多くて、それを知らないと難しいのですが、実際に回路を組んでみると難しいものではありません。
これらを順番に見ていきながら、下のような回路を作ってみようというのが今回のテーマです。説明した内容を以下に示します。
そのためにまず、スイッチとその動作、リレーの動作ということも簡単に説明します。
スイッチについて
まずスイッチについてですが、・・・。
スイッチの動作は、3つの働きを持つスイッチ(A接点、B接点、C接点など)があります。OMRONさんのHPの画像を使わせてもらって、簡単に説明します。
1. A接点の押しボタンスイッチ
メーク接点 NO接点ともいわれます。
押すとONになるスイッチ
一般的なスイッチで、押すと接点が閉じて回路に電気が流れるなどのために用います。
2. B接点の押しボタンスイッチ
ブレーク接点 NC接点ともいわれます。
押すとOFFになるスイッチ 非常停止ボタンなど
これはA接点スイッチの逆で、通常の状態では接点が閉じて電気が流れる状態になっていて、スイッチを押すと、接点が離れて電気を遮断します。
これは、押すのをやめると復帰する構造のものや、押し込んだものを引き出すと元の状態になってスイッチがONになって、電気が流れる状態になるスイッチです。
3. C接点の押しボタンスイッチ
切り替え接点ともよばれて、どちらかがON、どちらかがOFFになるようになっており、A接点とB接点が両方あると言ってもよいスイッチです。
これは、A接点とB接点を併せ持ったスイッチです。
押したときにはA接点側がONになると同時にB接点側はOFFになるようになっています。
端子が3つありますので、単独のA接点・B接点のスイッチとして使うことも、回路の切り替えなどに使うことも出来ます。
以上は単回路(1回路)ようですが、2回路用や多回路用もあります。
次にリレーです。
リレー(電磁継電器)について
リレーは、電磁石を利用して、スイッチをオン・オフさせるものです。
先に説明したスイッチと同じように、A接点としてスイッチが入るとつながるものや、B・C接点の他、独立した他回路に利用できる接点を持ったもの(2回路用・多回路用)など、いろいろなものがあります。
上図は機械式のA接点のリレーの図です。このように、リレー接点を動かす回路(鉄心に電気を流して接手をつなぐ回路)と、制御したい通電回路(図のピンクの矢印のように電流を流す回路)は通常は独立した別回路になっています。(この点が重要です)
リレーを動かすために直流電源が図示されていますが、もしもこれが交流であれば、スイッチの接点が振動(細かくON-OFF)して具合が悪いことになるので、電磁石を作動させる電源は、直流でないといけません。
よく勘違いするのですが、リレー回路と負荷回路は別のものです。それを理解していない(わからない)人がいますので、そのあたりも説明しておくといいでしょう。
リレー回路は、小さな電流でスイッチを操作する回路で、負荷回路は、(通常は、大きな電流などで)モーターなどを動かすものです。全く独立しているものとして考えなければなりません。
図の右のように、リレーのコイルに通電させると、電磁石に力で接点が引き寄せられて、回路が閉じて電気が流れる状態(機械が動く状態)になります。
リレーのコイルの通電を止めると、ばねの力で接点が離れて回路が開かれて電気の流れが止まる・・・そうすると、左の図のような状態で、回路の電源が遮断されたままです。
自己保持回路でのスイッチとリレーの様子
ここで『自己保持回路』について見てみます。
下図のように、一度リレーのスイッチが入ると、停止スイッチを押して回路全体の通電を遮断するまで、つないだ状態を保持する回路が「自己保持回路」です。
この図は、
1)電源スイッチ(A接点)をONにすると回路に電気が流れると同時に、リレーに電気が流れることでコイルに通電して、リレーのA接点が閉じる。
つまり、この状態で機械などが動く(負荷装置が働く)ようになります。
2)電源スイッチ(A接点)を押すのをやめると、電源スイッチのA接点が開くが、リレーのコイルには電気が流れているので、リレーのA接点は閉じたままなので、回路への電気は流れ続ける状態が保持されます。→機械は動いたままです。
リレーがあることで、スイッチを入れたままの状態に保持してくれます。
3)次に 停止スイッチ(B接点)を押すと、スイッチが解放されるので回路の電気は遮断されてリレーへの給電も止まるので、リレーのA接点が離れて、元の状態に復帰します。→機械は止まります
ということになります。(これは「自己保持回路」の一つの回路の例です)
ここでは、LEDやモーターなどの「負荷」は書いていませんが、当然、それをON-OFFするためのものであるのは言うまでもありません。(負荷の電源とリレーの電源も別です)
今回の工作では、機械などを作動させる代わりに、LEDを点灯させることで代用しています。
実際に回路を組んでみます
ここでは、このような部品や道具を使いました。もちろん、最低限、
1)リレーとリレーを働かせるための電源
2)ON用のA接点スイッチとOFF用のB接点用スイッチ
3)LEDなどの負荷回路(ここではLEDと固定抵抗または定電流ダイオードなど)
があれば、この回路を組むことが出来ますね。
うまく組み上がれば、
①電源スイッチ(A接点)を押すとリレーが「カチッ」と入る音がして、赤いLED(これを回路としました)が光ります。
②その後に電源スイッチから手を放しても赤いLEDは消えません。動き続ける状態が維持します。
③そして、停止スイッチ(OFF用:C接点の片側をB接点として使いました)を押すと、赤いLEDは消えます。
これで簡単な自己保持回路ができたことになります。
ブレッドボードで回路が正しく働いているかどうかを見て、そして、小さなユニバーサル基盤に組んでみました。
右の写真のように、電圧がかかっている状態で、緑色のLEDが光るように追加しました。
さらにここでは、固定抵抗を定電流ダイオードに変えて使っています。
以上が会社の若い人に電子工作というものに興味を持ってもらいたいと考えて6時間で実験などをやってきた内容ですが、意外と、学校で習ってきたことを忘れているようなので、オームの法則を用いて抵抗値を算出したり、定電流化の説明など、基本的に知っておくとためになる内容もたくさんあるのですが、6時間程度の時間では一からの説明では時間的に無理なようでした。
最後に
今回、電子工作などを初めて経験する若い人たちに、はんだ付け、テスターを用いた電流電圧測定、LEDを点灯させるためのオームの法則を利用した計算、リレー回路などを知ってもらって、機械に組み込まれている自己保持回路を組んでみて知ってもらうというのが課題でした。
中学高校時代に基礎は学んだと思うのですが、いざやってみると、時間も不十分なことも手伝って、少し難しかったようです。
回路図だけをみて、どのように接続するのかわからない人がほとんどで、ポンチ絵を書いたのですが、それでも、ほとんどの人は配線が交錯して、なにがなんだかわからなくなっていました。
何かをやろうとすると、意外と難しいということがわかっていただいただけでも成果でした。
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以上が全6時間の実習内容です。これが電子工作であると言えませんが、これだけでも、はじめての方のはハードルが高く、企業研修で若い方などに指導したり、個人の方で電子工作を始めてみようと考えておられる方もそうですが、適当な教材探しがけっこう大変だと思います。
「電子工作の基礎」の書籍を読んでも、基礎から読むだけでは、前書きが長すぎて、いつ工作にかかるかわかりませんし、応用編となると、基礎の説明もわからないまま、すぐにオペアンプやマイコンの話になってしまうなど、何かを考えて作っていく教材にめぐり逢うのが大変難しいと思いました。
今回取り組んだ方法や市販の「キットで遊ぼう電子回路」などを利用したり、そこに書かれた内容をもとにして、何らかの工作に取り組んでいただけるヒントになればと思います。
WEBでもいろいろな電子工作キットが販売されています。
しかし変な話ですが、今では、部品を購入して組み立てるよりも、完成した製品を購入したほうが確実に安いですし失敗もないので、このような取り組みの是非についていうのも難しいのですが、やはり、やらないよりやるほうがいいと信じています。
その他の参考になる教材は色々あります。探されると、いいものが見つかるかもしれませんし、今回のように、部品を購入して組み立てると安価になっていますので、個人の方でも、ぜひこのような基礎的なことを、何でもいいので自分の手でやってみてください。
下にAmazonや楽天のリンクを張っていますが、私自身、いくつかのキットを購入して制作しましたが、応用力をつけたり、自分から何かをするには適していない感じがします。
WEBの秋月電子さんなどで自分で部品を購入できるようになれば、安くて楽しめる趣味になると思うのですが、こればかりは、個人のことですのでなんとも言えません。
以上、若い頭の柔らかい人が実習に参加してくれました。それでも、かなり難しかったのですが、素人の従業員が機械の内部の配線を理解して修理したり改造するようになることは難しいかもしれません。しかし、これをどうにかしないと、会社の存亡に関わるかもしれない危惧も感じます。
電子部品で言えば、日本の「任天堂スイッチ」にもMade in Chinaと書いてあります。・・・。難しい時代ですね。
長文をお読みいただき、ありがとうございました。


